「あなたの心に…」

 

 

 

Act.16 決戦!期末テスト初日

 

 

 

 初日は国語から始まったわ。

 これはきっと転校生に学年TOPを取らさせないための、学校側の策謀ね!

 だって一番苦手な科目だもん。

 おっと、漢字はOKよ。そのうち第2水準もクリアしてあげるわ。

 でもね、あの古典や漢文は…。

 まだ漢文はいいわ。漢字の意味さえ捉えれば、あとの法則は英語に近いもの。

 ただ古典はね…。ラテン語みたいなものじゃない。

 日本語がわかってても、古典の日本語は100%大丈夫とはいえないのよね。

 でも、泣き言は言わないわ!

 絶対に学年TOPをとってやるんだから!

 

 う〜ん、自己採点で90点とれたかな?やっぱり古典よね。

 意味がわかればいいじゃない。何段活用とか…ま、いいか、次よ、次!

 う〜ん、やはり私対策よね。この時間割は。

 2時間目が家庭科って、凄く意味深だわ。

 だが、しっか〜し、転校してきた頃の私じゃないわよ!

 毎日のママからの特訓で、実技も何とか様になってきたんだから!

 ペーパーの方は、こんなのお茶の子よ。

 ……。

 汚いじゃない。

 試験範囲以外のものも出てるじゃない。

 あとでヒカリに聞いたら、小学校のときに習ったんですって。

 帰国子女を馬鹿にしてるのね。

 ま、いいでしょ。マイナス7点か。

 アイツはどうせ満点でしょうから、7点差は確実についたって事ね。

 よし!苦手2科目が早々に終わったんだから、あとはオール100点を狙うわよ!

 

 3時間目は理科の1分野。

 へへん!楽勝よ!満点は間違いない。

 名前も書いたし、3回見直してもミスは全く見つからないわ!

 ちょっと待って!

 もし…もしよ。アイツがすべて満点だったとしたら…、
 最初の2教科の差は埋まらないって事じゃない。

 う〜ん、可能性はゼロではないわね。

「ちょっと、そこのお隣さん?」

「え?何」

「満点?」

「そんなことわかんないよ」

「自信ある?」

「大体はできたと…思うけど」

「じゃ、問い3の答えは?」

「問い3ってどんなだっけ?」

「ほら、○○○が××したとき、▲▲▲の□□は何ml増減したかってのよ」

「あ、えっと、16.5ml増えるにしたけど…」

「う〜ん、じゃ問い6の◎○が▽▽▽したときの■■■はどう変化するかってのは?」

「え〜と、●●が発生して、◎○の濃度が20%薄くなるって…あ!」

「はは〜ん、間違えたわね。そこは20%じゃないわ。
 ありがとう、ちょっと安心したわ」

 私は少し気が楽になった。アイツは完璧じゃなかった。

 私は完璧だから、ほんの少し差は縮まったってわけね。

 でもアイツ、侮れないわ。問い3を正解するなんて。

 これは後の教科、気を抜けないわね。

 

 試験中はお昼までだから、結構時間はあるのよね。

 だって、試験前だからって頑張りすぎてもいけないもの。

 だから、昼間はマナと遊んでる。

 

 ちょっと前まではお喋りだけだったけど、
 今はちょっとしたゲームならできるようになったの。

 身体を使うのは、マナに実体がないから無理だけど、カードや駒を使うのはOK。

 でもね、マナって顔に出ちゃうから、ポーカーとかブリッジは駄目なのよね。

 チェスや将棋はイヤだって言うし、ボードゲームが多いかな。

 それと、パソコンのRPGね。

 マナに考えさせて、私が操作するの。

 マナって個性的な考え方するから、動かす私がおかしくって。

 3人パーティーだったら、絶対に名前をマナ・シンジ・アスカに変えちゃうしね。

 アイツをかばうために、主人公のはずのマナが何度身代わりで死んだことか。

 サブキャラの私なんか、もうやられ役専門よ。

 おいしいところは全部アイツがもっていっちゃうの。

 ま、おもしろいから、いいんだけど。

 今日は人生ゲーム。

 前世紀から生き残ってるゲームで、最初はパソコンでしていたんだけど、
 わがままなマナがボードゲームでしたいって言うから、
 わざわざ買ってきたんだよ、これ。

 私の進め方は堅実そのもの。

 マナはハチャメチャ。

 常に株券を10枚以上購入して、必ず人生最大の賭けになるんだから。

 でも、おもしろいの。ホント。

 ただ、このゲームひとつだけ気に入らないのは、絶対に結婚させられることね。

 気に入らなかったら、結婚しない人生もいいんじゃない?

 ま、マナみたいに結婚のマスにくるたびに、
「シンジを車に載せて!」
 って、大騒ぎするのは、見てて最高だけど。

 でもね、マナ。

「アスカの隣にシンジが座ったよ!よかったね、アスカ」

 これは止めてよね。

 う〜ん、アイツがこのゲームをしたらどんなのかな?

 選択しないといけないときに、絶えず悩みまくるって感じよね。

 マナに聞いたら、大笑いしたわ。

 小学校のときに、実際に友達の家で遊んだみたい。

『あ、保険どうしよかな…もし買わなかったら…でもお金かかるし…』
『双子ってどうしよ。男と女にしようかな。でも女の子二人でも…』
『え〜、どうしてピカソの絵を買わないといけないの?10万ドルなんてないよ』
『マナぁ、助けてよ〜』

 でも助けを求めた相手は、株券と約束手形を握り締めてて、
 それどころじゃなかったんだって。

「あ、アスカ、結婚だよ」

 う〜ん、またもやこのマスに強制的に止められたか。

 仕方がないから、青いの一人乗せてやるか。

「あ〜ん、先に馬鹿シンジを取られちゃったよ〜」

「ぐへ!アンタね、ほら、アンタのシンジはここにこんなにいるから、
 私はアイツを選んでないってば」

「じゃ、誰?」

「名無しのゴンベさんよ」

「そんなのおもしろくない」

「じゃ、ジョンよ、ジョン」

「それ実在の人物?」

「ん…ジョンならどっかにいるわよ。はい、マナの番だよ」

「ヤだ。アスカの隣にシンジが座らなきゃイヤ」

「はぁ…、じゃいいわよ。どうせゲームだし、アイツでも誰でも」

「やった!よかったね、馬鹿シンジ。アスカが選んでくれたよ」

 マナ…、頼むからゲームにのめりこまないで…。

 

 マナとの人生をかけた壮絶なバトルが終わった頃、家事修行の時間になったわ。

 今日は私がアイロンをかけて、あとは料理。

 後片付けが終わったら、課題になってる(させられた)編物ね。

 それでお風呂に入って、マナとお喋りして…それからお勉強。

 わざわざ試験のために勉強なんかしないわよ。

 それじゃ試験にならないもん。

 今日は古典よ。試験の屈辱は忘れないわ。

 さて、もうすぐ6時30分、アイツが晩御飯を食べにくる時間よ。

 最近はアイツも一品持ってくるようになった。

 メインじゃなくて、ほうれん草のゴマ和えとかそういうの。

 うん、マナの言う通り、美味しい。ホント、日本料理はママより上かもしれない。

 

「じゃ、アスカがそんな失礼なこと言ったの?」

 しまった。口が滑っちゃった。

 今日、アイツに試験の後間違ったところがないか、確かめたことを喋っちゃった。

「もう…駄目でしょ。頑張るのはいいけど、相手が間違えることを期待しちゃいけないわ」

「ごもっともです。ごめんなさい」

「謝るのはママじゃなくて、碇君にでしょ」

「いいんですよ。僕は」

 ほらね、こういうヤツなんだから、負けたくないのよね。

 こう…もっと、覇気が前に出てこないのかな。

「アスカももっと楽しくやりなさいよ」

「だって…勝負だもん。誰にも負けたくないもん」

「はは、僕は別に負けても…」

「あ〜!そんなこと言って、逃げてる!」

「アスカ!」

「勝負なんだから全力できなさいよ。張りがないじゃない。
 じゃ、賭けましょうよ。どっちがTOPになるか」

「え、賭けるって。そんなテストで賭けなんて」

「その方が、こう…燃えるじゃない!」

「本当に負けず嫌いなんだから、アスカは。
 ね、碇君、迷惑だろうけど、勝負してあげて」

 やった!ママが味方についたわ!

「そうね…。総合得点で負けた方が、映画を奢るってのはどうかしら?」

「いいわ!それに決定!」

「えっと…僕は」

 アイツは少し戸惑っていたけど、私に微笑みかけた。

「僕も…、それでいいです」

 へ?何?

 その挑発的な、透き通った笑顔は。

 わかった!負けないぞって意思表示ね。

 一瞬、ドキッとしたじゃない!

 ふう…、こっちも顔が火照ってきたわ。

 胸がドキドキしてきたわ。

 きっと身も心も、アイツとの勝負に燃えてきたのね。

 絶対に負けないわよ!

 

 

 

 

Act.16 決戦!期末テスト初日  ―終―

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
第16話です。『学年TOPをねらえ!』編の前編になります。
少し短めですみません。
そろそろアスカの肉体が、シンジの言動に反応を始めます。
あ!そこ!肉体って変な意味じゃないですよ。
ぼふっ!ドキッ!キュン!などの、反応です。精神の方は相変わらずなのですが。
ターム様の名作「きゅんきゅんアスカちゃん」の模倣にならないように頑張ります。